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国立音楽院

2021年06月28日

発達障害の子ども達と音楽―学びの場に音楽という選択肢を

国立音楽院では、発達障害を持つ小学生~高校生までの生徒が音楽と共に生き生きと学校生活を送っています。

発達障害とは?ー発達障害児の学校選びの難しさ

発達障害は生まれつきの脳の機能的な問題で、物事のとらえ方や発達の道筋・スピードが多数派の子ども達と異なることが特徴です。病気ではなく個性(特性)であり、一人ひとりの個性(特性)を本人や家族・周囲の方が理解し子どもに合った学びの場を選ぶことで、子どもが持つ本来の力が発揮されます。

発達障害はさまざまなタイプに分類される

発達障害のタイプは多岐にわたり、自閉症、アスペルガー症候群、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害、チック障害などが挙げられます。その中でもよく見られる発達障害を3つ挙げていきます。

・自閉症スペクトラム障害

対人関係やコミュニケーションに障害があり、限定的な興味や行動にこだわりがみられます。また、特定の音や匂い、触覚を極端に嫌う過敏性の症状もあります。約100人に1~2人存在するといわれていて、広汎性発達障害(PDD)やアスペルガー症候群も含まれます。

・注意欠如・多動性障害(ADHD)

注意したり集中したりすることが苦手で、じっとできない・気持ちのコントロールが苦手といった多動性や衝動性がみられます。これらの特性は7歳までに現れるとされていて、学童期の子どもには3~7%存在するといわれています。

・学習障害(LD)

知的発達に問題はないものの、読む・書く・計算する・話すといった特定の領域に困難さがみられます。全体の2~10%存在すると推測されています。

・広汎性発達障害

生まれつきの脳の微細な異常が原因と考えられている神経発達障害の一種で、アスペルガー症候群や自閉症などを含む発達障害の分類です。
コミュニケーション能力が弱く、独自のこだわりに強くとらわれるために社会生活が困難になりやすい特徴を持ちます。

発達障害への学校の対応

発達障害の特性は、学校という集団生活の場では他の子ども達に比べ目立ちやすく、また理解されにくいのが現状です。学校は1クラスの人数も多いため、先生側が必ずしも毎回発達障害の子どもの特性に合った対応をできるわけではありません。叱られたり、いじめられたり、勉強についていけなくなったりといったつらい経験が重なり、学校嫌いや不登校につながる場合もあります。

発達障害は個性(特性)です。
子ども達がのびのびと毎日を過ごすために、特性に合った学校選びはとても大切です。

発達障害と音楽ー国立音楽院のインクルーシブ教育

国立音楽院は、障がいを持っている生徒が主体となるクラスを設けています。発達障害の子ども達への音楽教育の有用性や、国立音楽院のインクルーシブ教育をご紹介します。

発達障害児が音楽に触れるメリット

発達障害を持つ子どもにとって、非言語である音楽は親しみやすく、受け入れやすいといわれています。楽器を演奏したり、歌を歌ったり、音楽に合わせて踊ったりといった活動を通して他者と関わり、ソーシャルスキルや自己表現力、想像力を育てていきます。「楽しく」行うことが大切で、ポイントでもあります。

国立音楽院のインクルーシブ教育

国立音楽院では、障がいを持つ生徒が主体となる「障害児(者)学習コース」を設けています。このクラスの特色は、障害のある・なしに関わらず、共に同じ空間で学ぶ「インクルーシブ」教育です。高い専門性や知識・技術を取得した担当指導講師が、それぞれの分野を生かした音楽の授業を行います。

「障害児(者)学習コース」では、発達障害をはじめ、さまざまな障がいを持つ生徒がそのクラスになくてはならない存在として認められ、音楽を通じて充実した学生生活を送っています。
国立音楽院は、音楽が生徒に自信や達成感、自立心を与え、生涯においてプラスの効果や影響をもたらすようサポートしていきます。

生徒の紹介

中等部3年生 最上 開くん

「10年ほど前、近所の音楽教室で学校のパンフレットを見つけインクルーシブクラスがある事を知り頭の片隅に学校の存在が残っていました。
転校を機に心身のバランスを崩し不登校になった際、ふと国立音楽院の事を思い出しました。
本人が好きな音楽の中で生活をしたら体調が回復するのではないかと考えたのと、何度か見学させて頂き本人が国立音楽院に行きたいと伝えてくれたので入学を決意しました。
国立音楽院で楽しいことは、ありのままを受け入れてくれる先生&生徒の仲間、そして笑顔と笑いが多く温かい雰囲気の授業です。
目標は、ディズニーのような音楽を作り、皆を笑顔にすることです!」


中等部3年生 石井宏旺くん

「音楽を中心とした芸術活動をしながら、個性を伸ばし、将来へつながる学びができると考えています。
勉強面について不安もありましたが、1対1で個々の課題の要望にも対応してくださり、色々な方面から勉強できるので飽きずに学ぶことができております。

音楽を通して表現力が豊かになり、自信がついてきました。異年齢との触れ合い、様々なジャンルの音や楽器に出会えるため、毎日が本当に楽しいです。
将来の夢は、好きな音楽で社会貢献できるようになりたいです。」

先生の声

岡信行先生コメント

私は3年前に初等部の一般学習の講師となってから、国語学習の発展として、ソックスパペットを使った人形劇作りを取り入れています。
これは靴下で人形を作るところから始まり、マイパペットを使って、劇を考え、文字に書き、声に出して読み、発表し合うという活動です。

国語力を伸ばすだけでなく、表現力やコミュニケーション能力を高めるためにも効果的な活動で、何よりも子供たちが楽しんで取り組めるところが魅力です。
ひどい不安感、ストレスなどの様々な理由で学校に行けない不登校の子や、ダウン症などの障害を持った子や、人前で表現することが苦手な子も、パペットであれば、自分なりの能力を発揮して、表現をすることができます。

今年度から、ドラマ(演劇)という授業を立ち上げさせていただき、現在は初等部、中等部の子供たち十数名が、マイパペットを使って、楽しく人形劇作りに取り組んでいます。

また、同様に今年度から立ち上げさせていただいた授業に「手作り楽器講座」があります。
これは、牛乳パックやストロー、ペットボトルなど、身近な素材を使って、楽器を作り、演奏を楽しむという活動です。

ただ音が鳴るだけではなく、きちんと演奏ができることがねらいなので、シンプルな構造の楽器で正しい音程を作ることが難しいものもありますが、音感を育てるには効果的な活動です。

1、乳酸菌飲料のボトルで作ったヤクルト「ヤクルトトーン」
2、牛乳パックで作ったスライドホイッスル「GPS」
3、太さの違う日本のストローで作った「ストロースライドホイッスル」
4、たれびんで作った「カンターレビン」
5、駄菓子の入っていたケースで作った「ティコ」
6、ガチャガチャのケースで作った「ガチャマラカス」
7、ペットボトルの蓋で作った「チャフチャク」
8、アイスキャンディーの入れ物で作った「チュロンペット」
9、おにぎりケースで作った「オニギリマラカス、オニギリーナ、オニギロ」


池田公生先生コメント

「音楽は愛」
私の本業はジャズピアニストですが、長年国立音楽院の「インクルーシブクラス」を担当させていただいております。
様々な個性を持つ方々ととてもたくさん触れ合いの時間を持たせていただきました。
「ピアノパラリンピック」の国内選考委員を拝命しておりまして、これまで多くのパラピアニストたちを本校のインクルーシブクラスから送り出してきました。先ずはその中から何人かをご紹介したいと思います。

K.Iさんは早産による脳性まひにより車いすの生活。コントロールできるのは右手人差し指のみですが、6歳からピアノを始めました。
優れた暗記力により楽譜は全て暗譜し演奏に臨みます。メロディー部を主に担当し伴奏は連弾によりお母さんが担当します。
これまで、国連本部やカーネギーホール等でも演奏しましたが、本校学生時にウィーンで開催された大会では総合で銀メダル、スペシャルオーディエンスアワードを受賞しました。
その時に演奏した曲は課題曲の「喜びの歌」はジャズアレンジで。自由曲は、私が彼女のために書き下ろした「一輪の花」です。私はそんなピアニストたちに楽曲を贈り続けてもおります。
2018年にはクラウン徳間ミュージックよりアルバムのメジャーデビューをプロデュ―スさせていただきました。そして、2021年東京パラリンピックの開会式のパラバンドの一員に選ばれ、坂本みうさんと共演もしました。卒業後も世界を舞台に演奏を続けているばかりではなく、エレクトーンのレッスンも受け少しずつですがコントロールできる指や四肢が広がってきています。「何年後かには車いす卒業かなぁ〜」などとも話しています。

J.Kくんは生まれつき聴力がありません。本校には長野県の聾学校を経て入学してきました。授業はいつも最前列で受けていました。
読唇術で言葉を理解します。ところがピアノを弾かせるとべらぼうに上手く「本当に耳が聞こえないの?」と疑ってしまうほどです。
彼は生まれつき内耳の筋肉が発達しておりそこでピアノのバイブレーションを感じることが出来るとのことでした。
彼は世界中で活躍しNHKで密着番組も作られました。普通耳が聴こえなかったら「ピアノを弾こう」とは思わないかもしれません。
体が不自由でも耳が聴こえなくても、ピアノは誰に対してもパラレルなポジションにあるのです。

M.Oくんは統合失調症と自閉的疾患、パニック障害をもっていましたが、ピアノが唯一の友達でいつも自作の曲を弾いていました。
私はジャズピアノのレッスンを、またクラシックピアノや作曲のレッスンを本校で受けました。
ピアノパラリンピックに参加し続けて入賞の常連になっています。
また2017年第14回ゴールドコンサートではグランプリを受賞しました。ピアノが彼の言葉を雄弁に語ってくれます。

R.Kくんは盲目のピアニストオルガニストです。彼はインクルーシブクラスのスター的存在でした。仲間が毎週歌を歌うのですが、誰のリクエストも全て弾いてしまうのです。
一度聴いたら絶対忘れないのだそうで、その才能には毎回感心していました。
当然楽譜はありません。全部耳コピで弾いてしまいます。
私は彼こそジャズピアニストに向いていると思っています。卒業後はジャズの修業はもちろん、様々な福祉施設への慰問演奏を続けています。
いつも同伴されていたお母様は、本校音楽療法科に入学され音楽療法士として活躍されています。実習としてもインクルーシブクラスに参加されていました。

K.Mくんは世界でも例のない男性のレッド症候群です。染色体の異常による障がいで、男性の場合はまず生存できないのですがごくごくまれに、X染色体が2個ある場合があります。奇跡の命を持った人でした。
それまで通っていた支援学校にはなかなか馴染めず休みがちで、体調を壊しやすかったそうですが、本校に入学以来たった一度の欠席もなく、体も丈夫になり、ピアノもとても良く頑張って弾けるようになりました。
最後の発表会でピアノを弾いた後で嬉しくて泣いた顔は、今でもはっきりと残っています。
お母さんも一緒によく頑張りました。

音楽の道へ歩むことは素晴らしいことだと思います。しかし様々なハンディキャップがあっても、最終的に自立してゆくことが重要です。
2010年に私はアメリカで行われた音楽療法のサマーミュージックキャンプに参加しました。6歳から18歳までの全米各地やアフリカ、日本、オーストラリアなどから様々な個性を持つ子供たちが参加していました。
子供たちは2週間様々な音楽療法を受けます。そして2週間後には、その成果を両親に見せるのです。

正直2週間で目を見張る成果は期待できません。しかしなんと笑顔が増えた事か!!明らかに顔が違います。
主催していたのはアメリカの音楽大学でした。セラピストたちは音楽を教えてはいませんでした。
愛として音楽をその子のために奏で、歌い、踊り、降り注いでいました。

その大学では卒業生の自立達成率が95%だと言っていました。音楽の道に進学する人が5%だと。
95%の学生は自立支援のための音楽療法を受けるのだと話してくれました。何故自立支援に音楽を教えるのですか?と聞いたら「Because Music Is Love」という明快な答えが返ってきました。
音楽を利用したり手段に用いるのではなく、音楽に、音楽の愛に委ねてしまう事が大切だと思っています。

よく達成感や出来栄えなどで、考えてしまう場合がありますが、急かすことはせずあくまでも待つこと、良いところをとことん讃えて行くこと。柔らかい空気間の中で、穏やかにぬくもりのある空間で音楽にゆだねて、時を過ごす。それがインクルーシブクラスです。誰でも同じように楽しい時間を過ごすことをモットーとしています。

今年はどんな人との出会いがあるのかな?どんな時間を過ごすことが出来るかな?毎年わくわくしています。

音楽は愛、なのです。

発達障害と進学ー国立音楽院の多彩なカリキュラム

国立音楽院には28の学科・コースがあり、学びたい科目を自由に選べるオープンシラバス制を採用しています。また、音楽を学びながら高校卒業資格を取得できるサポート体制も整えています。

初等部・中等部・高等部で自由に学ぶ

国立音楽院には初等部・中等部・高等部があり、各学科に在籍しながら障害児(者)学習 コースで音楽を学ぶことができます。発達障害を持つ生徒も在籍しており、音楽はもちろん声優やダンス、演劇、ミュージカル、バレエなど多彩な授業を受け、生き生きと学生生活を送っています。
一般科目の学習支援も行っており、高等部では高校卒業資格取得や専門学校、短大、大学、音楽大学への進学サポートも行っています。

インクルーシブクラスを担当する講師陣

発達障害や心身障害の有無にかかわらず、同じ空間で音楽に触れ、学ぶ国立音楽院のインクルーシブ教育。インクルーシブクラスには、専門的知識や経験の豊富な指導者と合理的なカリキュラム、そして充実した音楽環境が必要です。

国立音楽院のインクルーシブクラスを担当するのは、障がいについて正しい知識や見識、そして高い演奏技術を持った指導者達です。それぞれの指導者の専門分野で、自らの経験や研鑽を生かした授業を行い、音楽を通して生徒たちの自立や積極性、達成感を育んでいきま す。