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国立音楽院

2021年12月12日

音楽療法士として活躍する卒業生が取材を受けました

  • 音楽療法学科

世代を超えた音楽を通じてのコミュニケーション

現在、東京海上日動ベターライフサービス(株)にて音楽療法士として活躍されている2017年専門部卒業の佐藤文月さんが取材を受けました。

介護施設での実際の音楽レクリエーションの様子と、インタビューを見る事ができます。

コロナ禍でなかなか再開ができなかった音楽療法の現場も、ようやく少しずつ再開の兆しを見せています。その再開直後の様子を取材した様子とのこと。

佐藤さんのプログラムは「頭の体操」「身体の体操」「心の体操」といった、3つの柱で構成されています。随所に散りばめられた工夫で参加される皆様に満足して頂きたいという言葉が、実際のレクリエーションの映像からも伝わってきます。

歌うこと、声を出すこと、笑顔でいることが一番!

あらゆる場面で会話や雑談の機会が減ってしまっている昨今、世代を超えた音楽を通じてのコミュニケーションを是非ご覧下さい。

施設でのプログラムに音楽を取り入れている目的について

楽しいイベントや季節の行事、様々な趣味活動は、暮らしに彩りを添えてくれます。その中で当施設がアクティビティに音楽を取り入れている理由は2つ。

1つは場所を問わない事、
もう一つは、どんな体調の方でも参加できる事です。

音楽はどんな場面でも生活にハリを与え、心をも動かす事ができます。

当施設には、専任のアクティビティスタッフを設置して、スタッフが奏でる音楽をご入居様は心待ちにされています。「先生来て下さったのね。あなたが弾いてくれるピアノを弾くと自然と体が動き出すの。」たとえ体を動かす事が難しい方であっても、リズムに合わせて思わず肩を動かし笑顔になるのです。音楽にはそれだけの力があります。

ヒルデモアは音楽を通してさいごまでその方らしい暮らしを支えます。

介護付有料老人ホームヒルデモア支配人より

 
★介護付有料老人ホームヒルデモアWEBサイト

奏でる音楽から繋ぐ音楽へ

「今更、私には外が晴れだろうが雨だろうが関係ありません」

冒頭の発言は、あるご入居者(A様)との初対面の時に伺った言葉です。

私が当たり障りのない天気の話をすると、荘厳な表情でA様は静かに仰いました。実はA様はこの時、ターミナル期(=終末期、以後ターミナル・ターミナル期と表記)に入っていました。ターミナルケアについてまだ無知だった当時の私には、この言葉が深く胸に突き刺さりました。

ターミナル期であったとしても、”自分らしく暮らすこと”、”心が動くアクティビティ”とは何だろうか。この時のA様の一言は、アクティビティケアの役割を考える大きなきっかけとなりました。

当施設は専任のアクティビティスタッフがおり、音楽、体操、手工芸など多様なプログラムを日々提供しています。ターミナルの方、集団でのプログラム参加が難しい方には、その方に合ったアクティビティを行う個別の時間も設けています。

 
私の仕事は、安定したケアの土台の上に成り立ちます。

ご入居者様に最も身近で寄り添っているケアスタッフとの連携とご家族との交流は、ご入居者様のお人柄や背景を知る上で必要不可欠です。そういった交流を通じて、A様にとって”心が動く瞬間”の一つに、音楽があることを知りました。CDを自ら選曲して聴く程クラシックがお好きだということも。

ある日、電子ピアノを持って居室に伺いました。
「クラシックを一曲聴いて頂けませんか?」

A様の表情は厳しいままでしたが、僅かに、確かに、小さく頷かれました。

ベッド横にピアノを移動させ、演奏したのはドビュッシーの月の光。たった4分半の音楽が、A様の心と表情を解かしていきます。そして柔らかな微笑みを初めてお見せになりました。それからというもの、居室に伺う度に、「待ってたわー、今日は何を聴かせて下さるの?」と心待ちして頂ける様に。時にはご家族、ケアスタッフも同席し、思い出話に音楽が花を添えます。

数か月後、A様は御逝去されました。

音楽の力は偉大ですが、必ずしも誰にでも当てはまるとは限りません。

耳が聴こえない方にとって、声を出せない方にとって、目の見えない方にとって、ターミナル期を迎えた方にとって音楽はどのような存在か。どんなに立派な音楽でも、聴いてくださる方の心を雑に扱えば、それは雑音にしかなりません。一人一人の状態、背景をよく知った上で、尊厳を尊重し寄り添うことが大切です。また、忘れてはならないのは、多様化する音楽のご要望にすぐ応えられるスキルでしょう。当施設ではクラシックやジャズだけでなく、ミュージカル映画音楽や1950年台の洋楽ポップスを好む方も多くいらっしゃいます。

音楽は無限ですが、人の命は有限です。
ご入居者様の”今”に、”今”応える。

幅広い音楽を学んだ国立音楽院の環境は、それを可能へと近づける大きな一歩となりました。豊かなスキルを身につけた上で、”何を提供するか”ではなく”どう提供するか”。奏でるだけではなく、お一人お一人の心に寄り添い、演奏者と聴き手が一緒に音楽を紡いでいく音楽へ。

私はこれからも心が動くアクティビティケアを追求し続けます。

 
佐藤文月
三歳からヴァイオリン・ピアノを始める。都立芸術高校より東京藝術大学ピアノ専攻に進学。在学中に学内演奏会・コンクールにて好評を得る。同大学中退後、国立音楽院に入学。現在、東京海上日動ベターライフサービス(株)でアクティビティ専任スタッフとして勤める傍ら音楽療法士・ピアニストとして活動中。

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