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国立音楽院

発達障がい(児)学習コース

「障がい」ということを意識せず、お互いをそれぞれ尊重できるインクルーシブな環境

発達障がい・心身障がいの有無に関わらず、共に同じ空間で学ぼう

国立音楽院では、障がいを持っている生徒が主体となるクラスを設けています。このクラスの特色は発達障がい・心身障がいのある・ないに関わらず、健常者と共に同じ空間で学ぶ「インクルーシブ (Inclusive Education)」。一般にインクルーシブ教育の場では、専門性や知識・技術を習得した指導法が求められます。国立音楽院のインクルーシブクラスの担当指導講師は、それぞれの先生方が得意とする専門分野で、そのモチーフに沿った自らの経験・研鑽を活かした授業を展開しています。「 障がい」ということを殊更意識せず、お互いをそれぞれ尊重できるインクルーシブな環境が、ここにあります。

発達障がい(児)学習コースに寄せて

手や体が不自由だということでピアノが弾けないとあきらめていませんか?ハンディーがあっても、実際に立派に活躍しているピアニスト、音楽家はいます。それぞれのハンディーを工夫して楽しくピアノを学んでいる人たちがいます。
昔から人は本能的に歌やハーモニーが人の心に生きる喜びや悲しみの癒し、良い集中力、モラル感を育てることを知っていました。古代ギリシャでは教育の基本の第1に音楽を掲げていたそうです。
ただ気を付けなければならないのは、それにはふさわしい立派な指導者と、合理的カリキュラム、それに良い音楽環境が整っていることが大切です。
特に障がいの有る方々の指導者については、単に個人の好意で教えるだけでなく、障がいについて正しい知識と見識、もちろん高い演奏技術を持っていなければなりません。それは指導者自身が障がいの有る方の目となり耳となり足となる、つまりモデルになることだからです。
それらのすべてがこの国立音楽院にはあります。 音楽院には音楽を学ぶ者の特性である優しさと礼儀正しさを備えた沢山の学生たちがいます。
そして例えばピアノを学びながらリトミックや、ダンス、即興演奏など、自然と音楽的素養が身に着けられるカリキュラムや、練習できる設備の環境が整っています。これらは単なる個人レッスンでは得られない貴重な経験をあなたにもたらすでしょう。
さらに「音楽に国境はない」とは言いますが、これは世界中どこへ行っても通用する音楽家を育てることを意味します。その為に国立音楽院ではオリンピックの芸術部門参加を目指す「国際障碍者ピアノフェスティバル(ピアノパラリンピック運動)」を支援し、ユニークな音楽家の育成と自立の為のお手伝いをしたいと考えています。
皆さんとご一緒に音楽を学べるのを楽しみにしています。

CIPFD 国際障碍者ピアノフェスティバル委員会 会長
迫田 時雄(さこだ ときお)
(元武蔵野音楽大学ピアノ科准教授)

Message from Student

石井 宏旺

入学のきっかけは、音楽を中心とした芸術活動を通して、個性を伸ばし、本人の存在意義を高められる学びができると思ったからです。初等部5年生から通い始め、高等部(6年目)に進学しました。様々なジャンルの音や楽器に触れることができ、異年齢の方々との出会いが刺激となり、表現力が豊かになってきました。また定期的に発表の場があることで、その過程が成長につながり、成功体験によって自信がついてきています。『好きな音楽を一生の仕事に活かす』ことを目指して、将来はヴァイオリンを中心に音楽活動を通して社会貢献していくことが夢です。 /お母様より

佐藤 翔(ロックプレイヤー科2年)

国立音楽院はロックやバンド、ミュージカルなど僕の好きなジャンルの授業 が多く、体験授業に参加してみたら先生も優しくて入学を決めました。実際に 入学してみると期待以上!とにかく明るい雰囲気の学校です。今までやったこ とのなかったエレクトーンにも夢中になりましたし、色々なライブにも出演で きて先生方からも「上手だね!」と言ってもらえるようなクオリティになってき ました。今までは自分の好きな曲しか弾けず、このままでは視野が狭いと感じ ていたのですが、友達から伴奏をお願いされて「人の好きな曲」にも対応で きるようになりました。ミュージシャンになるためには依頼された曲は何でも 弾けるようになろう!という気持ちで日々頑張っています。自分の得意な音楽 で人を幸せにできたら嬉しいです。

Message from Teacher

インクルーシブ教育の可能性について

[指導担当]池田公生 先生

3年前の夏、私はアメリカミシガン州で行われたウィリアムシンドロームサマーミュージックキャンプにオブザーバーとして参加いたしました。
そこでは大自然の中で音楽療法士が様々な形でこども達を音楽と触れ合わせる中で、社会性や協調性、本人の可能性を見出していくというプロセスが実践されてゆきました。最終的にはそのこどもたち一人一人の自立支援を促して行くものです。音楽が自立支援の動機となる理由を尋ねたところ明快な答えが返ってきました-「Because Music is LOVE!」 私も様々な形で音楽と触れ合いながら、一人一人の可能性を見極めていくことがとても大切だと考えます。
こどもたちは笑顔の中から音楽を通じ、様々な社会性や思いやりを身につけていきました。また音楽を「愛」として降り注ぐことは、こどもたちの心を「愛」で満たすことになります。そこから、初めて可能性を見出す光が見えてきます。人に対する優しさや愛情を発揮したり、思わぬ可能性を見出したりできました。
あるお子さんは、3年間の音楽セラピーを経て、一度聞いた物語やお話をあっという間に暗記してしまう力があることが発見出来ました。この能力を生かして自立に向けての支援をすることが出来ました。これはほんの一例ですが、様々な特性や長所を見出して個性としてそれを伸ばしていく力が音楽にはあります。優しく、ゆるやかに流れて行く時間の中で音楽と触れ合いながら笑顔で過ごせる場所を作っていきたいと考えています。またインクルーシブ教育に将来の進路を見出したいと考えている人にとっても、大いなる実習の場として期待が出来ます。

「音楽が好き」、それは才能です。

[指導担当]齋藤裕子 先生

インクルーシブクラスは、先天性の病気などの障がいを持った生徒さんを中心としたクラスですが、包括的という意味をもつインクルーシブという名前のとおり、障がいが有るとか、無いということに関わらず、参加している生徒さんみんなの才能を最大限に発揮して作っていくクラスです。
特に才能豊かな障がいを持った生徒さん達は、音楽理論や楽器の演奏技術、音楽療法などそれぞれの細分化された授業では、持っている能力を十分に出すことが難しい場合もあるので、彼等の才能を最大限に活かし、また、新しい才能や世界を発見する場として、インクルーシブクラスはスタートしました。今年度、私のクラスでは、障がいがある生徒さんと、そうでない生徒さんが半々で参加してくれました。
しかし、それは、援助する側と援助される側という関係ではなく、音楽を学ぶ同じ仲間として、参加してくれたと感じています。 人は誰しも、得意なことと苦手なことがあります。 私は、歌が専門で、ピアノが苦手です。私よりピアノが上手に弾ける障がいを持った生徒さんが沢山います。 そのため、授業で私はピアノをほとんど弾きませんでした。 そのかわりに、私よりピアノが上手な生徒さん達が、障がいの有る無しに関わらず、ピアノを弾いてくれました。その演奏に合わせて、みんなで歌ったり、楽器の合奏をしたり、連弾したりしました。 歌の好きな生徒さんには、先生になってもらい、みんなの見本として、歌ってもらいました。 いつも恥ずかしがって下を向いてしまう生徒さんが、得意な楽器になると、誰よりも上手に演奏できたりしました。
障がいを持った生徒さん達は、苦手だったり、機能的に出来ないことがあったり、援助が必要なことがあるかもしれません。しかし、苦手なことや出来ないことがあるのは、障がいを持った生徒さんだけではありません。ですから、それぞれの生徒さんが、自分に出来ることを最大限に発揮して、みんなで創り上げたり、互いに助け合いながら新しいことにチャレンジしたりすることが大切だと思います。 たとえ障がいがあったとしても、演奏の才能や音楽に対する純粋さ、音楽や歌への情熱は、誰にも負けない生徒さんが沢山いることを私は授業を通して教わりました。
誰しも苦手なことはあり、また、それに勝る才能も持っています。「 音楽が好き」それは、才能です。
国立音楽院で、今持っている才能を伸ばし、もっともっと新しい可能性を見つけてもらえたらいいなと思います。「 音楽が好き」という才能を持った沢山の仲間が待っています。

Message from Mother(お母さんの言葉)

音楽と接する毎日に娘の可能性を見出せました

専修科1年岩崎準子さん

娘は、重度の脳性麻痺で、電動車椅子を使用していますが、音楽が大好きで、小1の頃より1本指でピアノを演奏してきました。特別支援学校高等部3年時、「障がいが重いから、音大は無理だし…」、と進路に悩んでいたところ、障碍者ピアノ仲間の清水様より国立音楽院を紹介していただき、お話を聞きに伺いましたら、車椅子の娘にびっくりすることもなく、「可能性は沢山ありますよ。楽しみですね。」とおっしゃって下さった学院長先生のお言葉に、目の前の霧が晴れていくような気持ちでした。その後の授業見学で、娘も一辺に気に入り、すぐに入学を決めました。入学決定に伴い、スロープの購入やトイレの手すり取り付け等も、すぐに実施していただき、感謝しています。
入学当初は、私が常時付き添っていましたが、年代も様々な生徒さん達に助けていただき、また、障がい者として特別視することなく、色々な可能性を引き出して下さる先生方に恵まれ、現在娘は大変楽しく充実した毎日を過ごしています。今までの私とだけの連弾演奏という世界から、先生や仲間との音楽活動が増えて、グーンと世界が広がり、本人の胸の中にも夢がどんどん膨らんでいるようで、将来が楽しみになりました。
障がい者に門戸を開いている学校がまだまだ少ない中、国立音楽院のような存在は、大変貴重で有難く、皆さんにもっと知って頂きたいな、と思います。

共に音楽の世界で楽しむ喜び

高等部1年施維さん

音楽を通して知的障がい者の息子の将来像をみつけました。息子の施旭は現在16歳です。ダウン症にかかり、重度の知的障がい者と認定されましたが、幼少時から歌と音楽が大好きで、昨年、中学校卒業後、音楽を専門的に勉強した方がよいか悩んでいた時、日本障碍者ピアノ研究会会長の迫田先生のご推薦を頂き、また学院長先生の多大なご支援を得て、国立音楽院高等部に入学することができました。
学校で自由に好きな授業が参加でき、また毎日自分の都合でピアノの練習ができるので、とてもリラックスした環境に恵まれました。親として傍でいっしょに勉強したり、歌ったりすることができ、心理的不安が多い思春期でも各専門の優しい先生たちのおかげで、息子は毎日喜んで学校に通っています。学校でいろんな発表会を設けて頂いたおかげで、コンサートにも参加でき、舞台に上がる機会も多く、充実した日々を過ごせています。一年間、先生方の熱心で丁寧な指導によりピアノも歌も上達し、そしてピアノを弾きながら歌を歌うこともできるようになりました。この一年を通じて音楽での息子の将来像が見えました。
この学校には世界中の知的障がい者が音楽で交流できる機会があり、学生の天性と才能を発揮できる場があります。皆さん共に音楽の世界で楽しみましょう。

フレンドリーな仲間たちといろいろなことにチャレンジ

ピアノ科1年清水千鶴さん

娘の麻由(ピアノ科1 年生)が国立音楽院の存在を知ったのは今から3 年前、学院の池田公生先生との出会いがきっかけでした。
麻由はダウン症という知的なハンディを持っています。私の母から「音楽が好きならピアノをやってみたら? 指を動かすのは脳の発達にもいいし…」と言われ、5 歳からピアノ教室に通い始めたのですが、最初は、楽譜にカタカナでドレミファ…を全て書いてあげて、少しずつ覚えながら、のんびりとやっていました。
ところが、10 歳の頃、大きな転機が訪れます。ピアノ教室の先生がチラシを見せて下さった「高輪みんなのコンサート」という障がい者のピアノコンサートに思い切って参加してみたのですが、ハンディを持ちながらも、工夫して、楽しく演奏している皆さんの姿を見て涙が止まりませんでした。 この時、迫田先生と出会ったことで、いろいろなコンサートに参加させて頂けるようになります。翌年横浜で開催された第一回障碍者ピアノフェスティバル(ピアノパラリンピック)では錬磨賞を頂き、本人も目標に向かって頑張ることの楽しさを知りました。
2 年後の12 月、国際障碍者週間の際、ニューヨークの国連本部とカーネギーホールでのコンサートに、そして更に2 年後にはカナダでの第二回ピアノパラリンピックにも参加し大きな自信になりました。難しい曲に挑戦することで、精神的にも成長したと思います。
そんな日々を通じて、いろいろな方と素敵な出会いを重ねて来ましたが、高等特別支援学校2 年生の頃、「一緒にやらない?」と声を掛けて下さったのが、池田公生先生です。先生が主催する「愛のほほえみコンサート」は名前の通り愛の溢れるコンサートで、出演された生徒さん達も、初めてお会いしたとは思えない程フレンドリーでした。
「こんな素敵な先生と生徒さん達のいる学校はどんな所かしら?」と興味を持ち、国立音楽院を訪ねて見たのですが、本人も学院の環境をすっかり気に入り、自分の意志で高等部3年生に編入学することを決めました。 麻由にとっては生まれて初めての大きな決断でした。
学院では、麻由の大好きなダンスをはじめ、ゴスペル、ミュージカル、打楽器アンサンブル等々、ピアノ以外にも新鮮な授業を数多く受講しました。
また「インクルーシブクラス」というハンディを持つ生徒のための授業もあります。生徒達のペースに合わせアットホームなムードで音楽に親しむ癒しの時間です。もちろんハンディの無い生徒さんも大歓迎で、音楽療法士を目指す方などが一緒に活動しています。
昨年は、イギリスのトリニティ・カレッジによるグレード試験にも初挑戦し、4 級に合格することができました。イギリス人の試験官を前に堂々と課題曲を演奏することができたのは、暑い夏休みに熱心に対策授業をして下さった先生方のお陰と感謝しております。
東北の地に音楽で生きる元気を届け続けている池田先生のように、「麻由もいろいろなことにチャレンジしてくれればいいな」と願っています。