2023年10月28日
【ピアノ調律師になるには】資格や絶対音感は必要?東京で活動中の調律師に聞いてみた。
- ピアノ調律科
竹内淳先生インタビュー&ピアノ調律体験に行ってきました!
こんにちは、ライターの斉藤です。
本日は、実際の体験講習会でもやっているピアノ調律科体験を受けて実際にどんなことが体験できるのかをお届けしたいと思います!
後半では、日本ピアノ調律協会関東支部長で国立音楽院の講師を務めて下さっております、竹内淳先生に業界の事やピアノ調律師になるきっかけ、
また、どうやったらピアノ調律師になれるのかをインタビューをしていきます。
ピアノは小学生のころにやっていたキリですが、ピアノと調律の魅力をお伝えできるように頑張ります。
ピアノ調律科体験講習ユニゾン合わせをやってみました!
ユニゾン合わせの前にピアノの構造から、
ピアノの蓋を開けてみると数多くの部品が見事に連動して、音が鳴っている事がわかります。
ピアノは鍵盤と連動したハンマーが弦を叩く事で音を発する楽器なのですが
ひとつの音(鍵盤)に対して張られている弦の本数が違います。
1本弦、2本弦、3本弦と、音が高くなるにつれ本数が変わっているのです。
今回は真ん中のドの音を使っての体験だったので3本弦が張ってありました。
つまり、ドの音を弾くと実は同時に3つの弦から音が出ていることになります。
3本とも同じドの音が出るのですが、弦を多くすることで音色の奥行きを拡げるなどの効果があります。
真ん中の弦の音程に左右の弦の音程を合わせて3本とも、同じ音程にすることをユニゾン合わせといいます。
説明が難しいので、ぜひ実際に体験にお越しいただいて、実物をご覧ください。
・使用した道具
(右からチューニングハンマー、2種類の音叉、ウェッジフェルト、木ウェッジ、ミュートフェルト)
弦は張力によって音程が変わります。
一本一本がピンに巻きついており、ピンを回転させることで、弦の張力を調整します。
弦は一本あたり約90㎏の力が加わっており、それを支えるピンを回転させるにはかなりの力が必要で、とても手では回せません。
そこで使うのが、ラチェットに似たチューニングハンマーと呼ばれるピンを回す専用の工具です。
長い柄がついており、ピンが回しやすくなります。
それでもかなりの力が必要で、でも力を入れすぎると回し過ぎて丁度いい音程にならないとでかなり神経をつかう作業でしたが、音があったときは気持ちがいいです!
アップライトピアノの中身をじっくり見ることができて、実際に調弦ができる貴重な体験でした!
現役調律師へインタビュー!
国立音楽院の卒業生で日本ピアノ調律協会関東支部長の竹内先生に業界の事をきいてみました。
ピアノ調律科2年生の西田さんにも少しコメントをいただきました。
Q.竹内先生は国立音楽院の卒業生でもありますが、入学前の事、調律を勉強しようと思ったきっかけを教えてください
・竹内先生
就職で悩んだ際に、自身の技術がお客様と直で繋がる仕事がしたいと考えていました。今思えば、調律師も料理人や営業も技術が繋がる仕事ではあるけど、大学卒業時にはそう思っていなかったんですよね。
沖縄によく行っていたので、スキューバダイビングのインストラクターが面白そうだなと思ったりもしたけど、縁がないよりは昔からやっていたピアノに関係する仕事をやろうと考えました、アーティストはハードルが高いと感じてピアノ調律の技術を学ぼうと思いました。
でも最初は、自分のピアノが調律できたらいいなくらいでしたよ。
・齊藤
きっかけは、試しにやってみよう程度だったんですね。
西田さんはなぜ調律科に進学をされたんですか?
・西田さん(在学生・ピアノ調律科2年)
家に来ていた調律師が面白かったから。
・齊藤
そんなもんなの(笑)
・西田さん
高校を卒業して、語学留学をし海外の大学に受かったのですが、コロナで奨学金がでなくてキャンセルになりました…
その時にどうしようか考えた時に、たまたまやってみたかったのが調律師でした。
・齊藤
おふたりとも『これだ』、と思って入学したわけではなく思い付きに近かったんですね。
西田さんは、調律に加えて、作曲やバンド演奏でアーティスト活動もしていますよね?
・竹内先生
調律よりも演奏の方が楽しいもんね(笑)
・西田さん
そんなことはないです。
・齊藤
どちらも頑張ってますよ。
竹内先生は、調律師になってから演奏活動をしたいとは思いましたか?
・竹内
うーん仕事としてはあんまり。でも、ピアノ調律を勉強したからこそ、演奏がさらに楽しくなりました。他の楽器と違ってピアノは中身が見えないし、アップライトだと音が出ている箇所も見えない楽器です。基本的に音色は調律師がいい状態にしてくれているものなので、演奏者がいい音を出すために”聞く”という意識がむずかしい楽器です。
だからピアノ調律を勉強して構造を理解してからの方が、弾くのが楽しいし、音作りや表現の仕方がわかるようになりました。
他の楽器にも興味が湧き、主にピアノと同じ弦楽器を弾いてみたりもしました。
・齊藤
弦楽器や管楽器だと、まずは自分で音作りをするプロセスが必要だから、ピアノとは付き合い方が違いますね。その分、ピアノ調律師の影響が大きくなりそうです。
楽器の技術を勉強すると、練習のアプローチも変わるのも技術者としてよくわかります。
仕事としては、ピアノ調律一本なんですね。
・竹内先生
アメリカでは、演奏家で調律ができる方や全く関係ない職種と調律を兼業している方も多いようです。その場合は、調律だけで大きな修理などはしないようです。
日本では、ピアノ調律師と言えば、調律から修理、ピアノのこと全てをやるのが一般的です。
Q.入学後はどのように過ごしていましたか?
・竹内先生
バイトなどはしていなかったので、朝10時から夜21時まで1日中、調律の練習と授業でした。
最初の調律の授業で、全然できなかった劣等感からそのくらいやらないと、と思ってました。他には、音楽療法や和声、MTアンサンブル、ジャズコードの授業も受けていました。
・齊藤
色んな事が学べたお陰で、お客様との話題作りにもなるのがいいところですね。
西田さんは、先述しましたが作曲やバンド系の授業も取っていて、やりたいこと、好きなことを学べるのが国立音楽院の強みです。
Q.そのまま次の質問で国立音楽院のいいところを教えてください。
・竹内先生
先程も言った通り1日中練習ができる所と、オープンシラバス制度で色んな科目を学べることです。
調律以外のこと授業やプレイヤーの先生との話が役立つことも沢山ありました。
・齊藤
他の科目でやってみて良かったことはなんでしたか?
・竹内先生
入学当初は時勢的に”なんとか療法”は、すべて胡散臭いと思っていて、今もいらっしゃる杢野先生の最初の授業で『音楽療法ってどう思う?』って聞かれて、たいへん生意気だけど『胡散臭いと思います』って返した覚えがある。
・西田さん
先生のひねくれた部分が…
・竹内先生
でも、胡散臭いと怪しいと思っているだけでは、よくないなと思って勉強してみようと思いました。
・西田さん
優しい(笑)
・齊藤
音楽療法を勉強してみて実際どうでしたか?
・竹内先生
楽しかったですよ。音楽療法は、音楽の本質を突いていると思います。
音楽は人の心を動かすというところに根差しているなと、そこは調律にも活きたと思っています。
他には、年に数回あるクラシック演奏発表の手伝いでバックヤードに入れてもらった経験があります。調律師になって最初の内は、コンサートホールのピアノの調律はできないんだけど、そのうちやるようになってからはバックヤードを知っている分、流れなどが分かってよかったです。
・齊藤
え!?今はお手伝いをお願いしていないですよね?
次回から手伝ってもらうように掛け合ってみます!
Q.ピアノの日頃のメンテナンスと扱い方のアドバイス
・竹内先生
埃が入るので練習したあとは、ピアノのふたを閉めた方がいいです。あとは、飲み物をおかないとか、結露した水がピアノの中に入ると壊れます。
調律師がピアノに飲み物を置こうものなら、(ピアノ調律科の)髙橋先生だったら大激怒しますよ。
・西田
ピアノをなでなでしてあげるといいですよ。
・竹内先生
ほんとかなぁ(笑)
でも良く弾いてあげるのはいいことだと思いますよ。
・齊藤
すべての鍵盤を鳴らすようにするといいと聞いたことがありますがどうなんでしょうか?
・竹内先生
コンディションを保つためにやった方がいいってやつでしょ?ないない(笑)
半音階ですべての鍵盤を弾けと言う調律師もいますけど、しなくても大丈夫ですよ。楽しくないし。
むしろ余計に使う分、摩耗させてるだけです。湿度管理を気に掛ける方が大事です。
あと、最近だとアルコール消毒ですね、鍵盤をコーティングしている樹脂はアルコールに弱く、樹脂を溶かしてしまいます。
外装は最近だと、樹脂ではなくアルコールに強いポリエステルコーティングもあるようです。でも、昔はラッカー塗装だったし、見てわかるかと言われると分からないのでアルコール消毒はやめておくべきでしょう。
管楽器はラッカーコーティングですよね?ポリエステルは固いから管楽器だと鳴らなくなると思うし。
・齊藤
多くがラッカーかメッキなので、メッキならアルコールは大丈夫ですが、メッキの上にラッカーなどの仕様もあるた…
(齊藤は管楽器修理が専門です)
【閑話休題】
楽器に限らず、アルコールを金属以外に使うのはやめておくのが無難です。
Q.調律師になるには?絶対音感や資格は必要?
・竹内先生
絶対音感は必要ではありません。音痴でもできるようになります。
・齊藤
じゃあ、もしかして僕でも調律師になれる!?
・竹内先生
音痴かは知らないですけど、できると思います。
・齊藤
相対音感を鍛える感じでしょうか?
・竹内先生
というわけでもないです。相対音感は音の度数の差を聞き分けるのですがピアノ調律では、倍音を頼りに他の音を調律していきます。調律科では、その倍音を聞き取る訓練をしていきます。
・齊藤
倍音…よく聞く言葉ですがなかなか聞き取れない印象です。
資格はどうなんでしょうか?
・竹内先生
結論から言うと、資格は必要ないです。
一般的には、専門学校等に行って、就職し、経験を積むと調律師になれます。
他には学校に行かなくても、弟子入りという手段もあります。
その過程で、必要な資格はないけど、ピアノ調律技能検定試験を受けたりして、指標を作ることで就職に強くなったり、肩書を持てるということになります。
・齊藤
英検等に近いのでしょうか?
・竹内先生
んー、極端な言い方をするとそれに近いかもしれない。
管楽器はそういう資格はないの?作るのが難しいとは聞いたことあるけど。
・齊藤
社内規定での資格しか、今のところはないようです。
・竹内先生
それはピアノ調律もあるね。勤めている会社の試験を受けて、一番ランクが高くなるとになるとお得意先のコンサートホールの調律ができるようになったりします。
でも、退社すると使えなくなる肩書でもあるから、なかなか厳しいよ…
Q.1人前のピアノ調律師になるまでの道のりはどんな流れなのでしょうか?
・竹内先生
ちょっと昔だと、年間の稼動が250日で1日2台調律をするとしたら、1年で500台。
10年で5000台だから、5000台くらい調律したら1人前と言われてました。
まだ、自分自身が一人前とは思ってないし、技術に際限はないです(笑)
・齊藤
技術職は自分との戦いなところもありますよね。
Q.竹内先生の1日の動きを教えてください。
・竹内先生
日によってかなり変わるし自宅から直接訪問先に行って、そのまま家に帰ることも多いんだけど、つい昨日だと、
07:30 出発
10:00 埼玉の訪問先でグランドピアノの調律(2時間ほどで終了)
15:00 神奈川の訪問先でアップライトピアノの調律(3時間ほどで終了)
18:30 新宿のライブハウスで調律
21:00 帰宅
2件目のお客様は、ポップスのレコーディング等をやられている方で普段は”電子音”を聞くことが多い方なのですが、どうやら電子音に慣れるとノイズにとても敏感になるようです。
そのため、レコーディングやミックスをやるお客様だと、接し方が変わります。使っている用語の意味もピアノ調律師とは、違うニュアンスなこともあります。
あと、たまたまレアな消音機を使っているピアノだったので、道具がなかったりで少し時間が掛かりました(笑)
基本は夕方ごろに帰宅するのですが、夜公演があるライブハウス等から依頼があると夜まで仕事をすることもあります。
Q.今までどんなことで苦労しましたか?
・竹内先生
さっきも言ったのですが、お客様とのコミュニケーションが難しいところです。
当然なのですが、お客様でピアノの中身を知っている人は少ないので、そのなかでどうして欲しいかを読み取り、伝える、また調整することが難しく今でも悩むことがあります。
表現も様々で、重いと硬いは違うかもしれません。鍵盤一つにしてもタッチが重いのか、もしくは響きが硬いのか。その差を読み取ることが必要になってきます。
音色の区別も難しい所で、音色の形容は聴覚じゃないっていうのもポイントです。
柔い硬いは触覚、明るい暗いは視覚、甘いなんかは味覚だし、太い細いふくよかは視覚や触覚、嗅覚に似た感覚で奥行きを感じることもあります。
・齊藤
弾く人のこだわりで変化が大きそうですね。メーカーの音色の差というよりは、弾く人や調律師の違いなんでしょうか?
・竹内先生
ピアノメーカーはどれも似たような音になってきているのかも。というのも、ピアノコンクールがあるからだと思う。特有の個性があるとコンクールでは不利に働く場合があるから(笑)
調律師もなるべく個性がない方がいいと僕は思うけど、最後の最後にどうしても個性がでてしまいます。
Q.仕事へのモティベーションを教えてください。
・竹内先生
不思議と飽きはしないね。お客様に喜んで貰えることや反応が楽しいですし、いまだに成長を感じられるのがモティベーションになっています。
Q.最後にピアノ調律師を目指したい方、ピアノ調律の学校へ進学を迷っている方へ。今後の業界についても含めてお願いします。
・竹内先生
迷ってるならやってみるのは、いいと思います。就職をするみたいな普通じゃないことをするのはハードルが高いと思うけど、なんにしても一つのことを頑張ることが自信になると思っていますし、ピアノ調律科の生徒にもそうなって欲しいと思いながら接しています。
あと、たいていのことはDIYでできるようになったので、調律を勉強して調律師にならなかったとしても無駄なことはないと思います(笑)
ピアノが売れなくなってきたと言われていますが普及が進み安定してきたとも考えられます。これからは、しっかりとピアノを弾く人としっかり調律ができる人という風にシフトしていくと思います。
やってみたら面白いと思えるかもしれないし、収入にもなるかもしれない。フリーランスでやっている人も多いため、フリーランスでやっていきたい人にもおすすめです。
最後に・・・
ピアノ調律体験をしてきました!
後日レポートにまとめますが、ピアノの中身を触るのに緊張して疲労が…
音が合うのは気持ちいいので、みんな体験してみてほしいです。竹内先生考案のチューニングハンマーを使った一発ギャグ「サイ????」 pic.twitter.com/TkMJTNif7w
— 国立音楽院 (@KMAofficial) October 25, 2023
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・指導講師
竹内 淳
・関連学科
ピアノ調律科