2021年08月03日
「あたらしい風#5」インタビュー特集:真柄雄(作曲)
- ジャズミュージシャン科
- 作曲アレンジ科
今回で5回目を迎える「あたらしい風」に向けて
(本番へ向けてリハーサルも順調に進んでいます)
8/22(日)としま区民センター多目的ホールにて開催される、国立音楽院・作曲アレンジ科授業のオーケストレーション履修生による作曲や編曲の世界初演コンサート「あたらしい風#5」。間近に迫る開催日まで、インタビュー特集をお届け致します。
今回は作曲で作品を出展している、2020年度・作曲アレンジ科卒業生の真柄雄さんの楽曲紹介コメントをご紹介!
真柄雄 – Takeshi Magara –
成城大学芸術学科を卒業後、国立音楽院に入学。作曲を園田優氏に師事する他、ジャズアドリブを学ぶ。2021年同学院の作曲アレンジ科を卒業。ジャズ部門においてKMA賞を受賞する。
卒業後はジャズトロンボーンプレイヤーとして、都内のジャズバーを中心に活動を行うと共に作曲家としても活動。ジャズやクラシックのみならず、クロスオーバーな楽曲を制作している。
「祈り」 楽曲紹介コメント:真柄雄(作曲)
「大小の聖人、重軽の悪人、皆同じく斉しく選択大宝海に帰して念仏成仏すべし。」
浄土真宗の仏典である『教行信証』の一節です。諸説はありますが、「どのような人であれ御仏の教えを信じ称名すれば救われる」という意味だと私は解釈しています。
「あれをやれ。これをやれ。」とルールだらけの宗教が多い中、こんなにもあっさりとした教えを説く浄土真宗が好きなので、仏教徒ではありませんが冒頭にて紹介しました。
このように世界には様々な宗教があり、そしてその数だけ祈りの形があります。
さて今回「新しい風#5コンサート」に出展した『祈り』では、そのように多様性に満ちた「祈り」を音楽で表現しました。
そして作曲する中で特に私がこだわったのは「2つの祈りの形をいかに表現するか」ということです。ここで言う2つの祈りの形とは「宗教的に体系化された祈り」と「個人的な祈り」です。
まず前者は、冒頭にて紹介した浄土真宗など組織的な宗教において行われる儀式的な祈りのことを、そして後者は、初詣や七夕などに見られる個人の願望の成就などを目的とした祈りのことを指します。そして前者を音楽的に表現するにあたっては同じく体系化されたフルオーケストラの響きを、そして後者を表現するにあたってはより個人的な要素を持つ即興演奏をイメージしました。
この2つの要素をともに際立たせられる音楽的な手法として用いたのが「モードジャズ」です。
これは1950年代後半に誕生したジャズの1種で、元々グレゴリオ聖歌などで教会旋法として知られていたものをジャズ作曲ないしアドリブに応用し発展させた音楽体系のことを指します。
このモードジャズは、元々クラシカルな出自であることもありオーケストラの響きと相性が良い上にジャズ理論でもある以上アドリブにも適しているため、今回のような「オーケストラと即興演奏」という特殊な構成の音楽を作る上で非常に良い理論上の土台となりました。
これにより前半部ではドリアンモードの静謐で神秘的な響きの上で即興演奏が展開されるのに対して、中後半部ではオーケストラによるマイナー調でのエスニックで熱狂的な音楽が展開されるなど、祈りの持つ両面性と多様性を表現することが出来ています。
なのでそういったところも是非注目して聴いてみて下さい。
最後に、クロスオーバーに音楽を学ぶ機会とその土壌を作ってくれた皆様への感謝と祈りを込めて。
合掌。
真柄雄